お父さんの権威がいつからか、なくなりました。
恐竜が滅びるよりも勢いよく、お父さんの権威は下がる一方です。
ある落語家がお父さんの権威が下がった原因は、3つあると分析しています。
落語での話ですが、結構真実を突いていますが、そこは落語なので、最後に
「落ち」があります。
では、その3つの原因とは、
(1)お金の威力
なんといっても、これが一番大きいでしょう。
昔は給料日には、お母さんが、なけなしのお金を叩いて、ご馳走を作って、
お父さんの帰りを待っていました。お父さんを待っていたと言うより、お金を
待っていたかもしれませんが、ともかく家族で、お膳にご馳走を並べて、腹を
空かせて、お父さんの帰りを待っていました。
間違っても、塾だ、TVだ、眠いだ、勉強があるだ、明日は早いだ等の理由で、
家族の誰かが、勝手に先に食事すると言うことは、皆無に等しかったと思います。
そこへお父さん(お金)が帰ってきます。何故か1品多い席に座って、おもむろに
「いただきま〜す」と全員が呼吸をあわせ、食事が始まります。
晩酌もちょっと入った、夕飯の半ば頃、お父さんは、思い出したように、鞄の中
から給料を出し、誇らしげに、威厳を持って、お母さんに差し出します。
例え、その月がいつもより少なくても、まだお母さんは手取り総額を知りません。
お母さんは、恭しく、その給料袋を両手で、頭より高く持ち上げ、「お父さん、
今月もご苦労さんでした」と言って、感謝の言葉と共に、満面の笑みで微笑
みます。
それを見ている子供たちも、当然のごとく、「お父さんは凄い、お父さんは偉い」と
思い、感謝の気持ちを表します。
会社で例え出世コースから外れたお父さんでも、ここで頭から後光が射して
いたものです。お父さんもまんざらではなく、威厳の中にも、にっこりと笑って
家族に「どうだ!」と、目で訴えたものでした。
いつも1品おかずの多いお父さん、給料を持って帰って家族を養っているお父さん、
怒ると世の中で一番怖い権威あるお父さん、そんなお父さんのような大人に早く
成りたいと、子供は皆そう思ったものです。
ところが、このお父さんの権威を根底から崩したのが、「銀行振込」という、恐ろ
しい給与システムなのです。
そのシステムのお陰で、お父さんの権威が一挙に落ちぶれていく結果になってしまっ
たのです。その当時は、このシステムが、後々お父さんの権威をここまで落とすとは、
誰人も予測できなかったのです。
お父さんが、給料日の日に疲れて家に帰ってみると、既にその給料は、その日の昼
には、お母さんによって全額引きおろされ、更に各予算(ローン代、家賃、教育費、
食費、保険、お父さんの小遣い等)の袋にが細かく割り振られ、お母さんは厳しい
顔(今月は残業もなく、手取りが少ないから、今月どうやって行こうか?)をして、
待っているのです。
今までだと、給料日には、有りったけのお金を使ってご馳走しても、その日の夜には
次の月のお金が入ってくるので、「バーン」と奮発できたのです。又毎回のことだか、
給料日の数日前は倹約しても、その日は豪華にお父さんを迎えていました。
すなわち給料日の夜までが、先月分の家計のやりくりでした。ところが、新「銀行
振込」システムになると、その日の昼に給料が入ってくるので、夜の食事から
今月の会計月になります。当然残業等無ければ、今日から締めていかないと、
やりくり出来ないのです。とはいえ昼は、「先月分がこれだけ残ったし、今月は厳しい
ので、あまり贅沢は出来ないので」と、筋の通らない理屈で理論武装した、お母さん
は、何とレストランで豪華なランチを食べ、先月をFinishするのでした。
夜は、難しいやりくりで頭が一杯です。お父さんが帰ってきた時は、もうその月の
収入が少ない事実も現実になっているのです。
そうして、お父さんの権威が、一挙になくなってきたのです。
(つづく)